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2010年05月24日

北京草場地日記 5月23日

早いものでこちらにきて三週間がたちました。本当にあっというまです。制作は、数々の失敗を繰り返し、先週あたりから、だいぶいい流れでプリントができてきました。3人の助手が必用だというこもわかりました。4人の方が日程を調整しながら来て頂いています。こちらで助手を頼んでもすぐに辞めてしまったり、あまり熱心ではないと聞いていましたが、今回手伝ってくださっている皆さんはとても熱心で、息もぴったりです。感謝です。

our faceはさまざまな人のアクティブな現場で撮影します。ですから、その場所の暗さや明るさ、遠かったり近かったりします。一定でない条件の大きなイーゼルに露光して、丹念に目の位置に合わせ、テスト露光します。その後本番露光します。35ミリのネガから壁面投影して像が細かい部分まで見えるかどうかが当初心配でした。しかしやってみたら、厳しいネガもありますが、だいたいなんとかなっています。壁面と引き延ばし機の距離をネガごとに変えて行きます。巨大な引き延ばし機ですが、その移動も2人がかりですがスムーズです。イーゼル(180×150cmアルミ板)をマグネットで貼付ける壁面の鉄板が大きいのが幸いです。写真によっては極端に斜めになったりしますので。

昨日仕上がった「台北のコミケに北コスプレのひと34人を重ねた肖像」は予想以上の仕上がりで嬉しかった。写真が大きいので背景うっすら写るストリートの気配やさまざまな衣装の断片が独特の彼女たちの存在感と一体化しています。そしてアイメイクや個性的な髪型が重なりとなって、目の部分だけでもその痕跡と集積がなんともいえない、儚さがあります。

写真には門外漢のリー君も「わたし、この写真好きです」といってくれました。仕事のあとのビールがうまかった。ひとりで食べに行くおいしいのめて食べられる店もみつけてやっとペースがつかめて来た感じ。

先週末は北京の画廊で個展がはじまった今道子さんのオープニングに行って来ました。今さんにもお目にかかれました。学生の頃見た「eat」は衝撃的でした。お会いできて嬉しかったので一緒に記念写真をとっていただきまた。

それは久々の外出で、実は連日、終日美術館の塀の中に引き蘢っています。このままでは7月の展覧会会期中に予定しているシンポジウムのテーマも見つからないので、今週は三影堂のご夫婦でディレクターで作家のインリさん&ロンロンさんの回顧展が開かれている深圳と私の作品も出展されているART香港に行く予定です。
Works by RongRong & inri作品展 Compoung Eye
深圳HEXIANG NIBGART MUSEUM
http://www.hxnart.com/
HONG KONG INTERNATIONAL ART FAIR May27-30
at Hong Kong Convention and Exhibition Center http://www.hongkongartfair.com/

投稿者 Ken Kitano : 19:33

2010年05月17日

三影堂日記 5月18日 プリント

たしか昨日までNYフォトフェスをやっているはず。
パリで写真集を買ってくれたルーリードがキュレーションして展示とスライドショーと曲の演奏をしたはず。行きたかったけれど、いまは北京でのプリントが大事。

今日は「ショッピングセンター前の特設野外映画場で映画を見る人々(主に建設現場で働く出稼ぎ労働者)31人を重ねた肖像 北京市 2009」を焼いた。先週末から3度目でやっと今日、合格のプリントが上がった。(でも本当をいうとまだほんの少し不満。1枚焼くのにだいたい1〜2日のペース。日本で計画して不安で吐きそうだった頃を思えば上出来といえる。)

この写真は、昨年の今頃北京で撮影した。たまたま通りがかった週末郊外のショッピングセンター。シネコンもあるのにサービスのイベントで、ビルの前にスクリーンを張って無料で野外映画をやっていた。周辺の高層マンション建設現場(そこらじゅう建設ラッシュ!)で働く出稼ぎ労働者のおじさんたちが、飯場から来て映画を見ていた。スクリーンの反射に照らされた日焼けした顔が、とてもいい表情だった。スクリーン越しに望遠レンズで撮影した。

スクリーンの照り返しなの光だけなで暗い。トライXを6400に増感しても、ネガにほとんど像がのってない。これを1800cmの印画紙に壁面投影するのだが、ほとんど目が判別できない。印画紙を貼った重さ20キロ以上の特製のイーゼルを3人掛かりでわずかずつ動かして、かすかに見える(というかほとんど思い込みで)目の位置にあわせる。これが一苦労。壁面投影の大伸ばしで絞りを絞るのは大変。開放で位置をあわせて、印画紙にかぶせた暗幕を外して、投影する時にF8に絞りを変えるのだが、これが指の感覚だけで調整する。露光して、また印画紙を暗幕で包み、ネガをかえる。引き延ばしの位置を3人掛かりで移動し、目の位置にあわせ・・・・。30回もこれを繰り返す。集中力が切れそうになる。

デジタルとの違いはいろいろあるけれど、途中のプロセスが見えるのがデジタルの便利なところ。アナログは絞りひとつ間違えるとそれまでのプロセスが全部アウトだし、最後まで結果がわからない。銀塩のいいところは、デジタルは数万色の色しか持たないので、やっぱり有限なのだがそれに比べて銀塩は無限の諧調がある。僕のラムダで出している作品は、僕はハーフトーンが多いから、緩いグラデーションで、どうしてもトーンジャンプの筋がでる。それをひとうひとつ消してもらう。粒子で見るのもモノクロ銀塩のよさ。輪郭の溶けた人のイメージの部分部分は銀の粒子。この粒子を見ているうちにそれ自体が人の存在の粒子と等価に見えてくる時がある。

で、この写真は一昨日の第一回目は眠すぎ(トーンが浅い)でNG。
1/6段階コントラストを上げて、露光時間を10%伸ばして再プリントしたのだが、これがまだ眠かった。
で、今日の午後もう一度、コントラストを2/3上げて、露光を3%伸ばして再々プリント。やっと合格だった。

1枚失敗すると時間も経費も半端じゃないので、本当にへこむ。

投稿者 Ken Kitano : 22:06

2010年05月15日

三影堂日記 本当に!

舞妓さんの作品が出来上がった。

142cm×180cmのゼラチンシルバープリント。29人の舞いが、29回の露光の末に。
思い描いていて、遠くて、遠くて、定かでないものが、水洗から上がって目の前に濡れたままの状態である。これほどのものが本当に出来上がった。今年に入ってから正直、ずっと吐きそうだったけれど、とうとう本当にできた。とんでもないプリント作業だと思う。

今日は夕方、暗室にロンロン始め三影堂のみんな集まってきちゃって、ちょっと興奮気味でいい感じでした。
くたくたなのでまた書きます。

写真続けててよかった。

投稿者 Ken Kitano : 20:19

2010年05月11日

5月10日 北京日記

今日は初めて助手候補のオーディション。ここの専属暗室マンのルーファンさんと、英語ができるけど写真は素人で好奇心旺盛のゴン君、日本語が少しできるリー君、中国語しか話せないけどとても気が利くルーチ君の4人で初めて作業のシュミレーションをしました。やってみると途方ものない。大変な作業だと痛感。でも楽しみ。今日はイトーヨーカ堂で買ったうなぎ(当たり前だけど中国産)をあっためてキムチと食べました。広い中庭のある美術館に、夜は守衛さんと僕だけいます。夜は静かです。

投稿者 Ken Kitano : 08:50

2010年05月08日

三影堂日記 5月7日 アルミ板が届く

ここでの食事は昼は賄いのおばさんが作ったお弁当(おいしい)がでる。夜は自炊。料理は苦手ではないが、だいぶ日本と勝手が違う。なんでも大きいのだ。まな板、包丁、鍋。包丁は中華料理店でみかける10cm幅くらいのでかいやつ。野菜も肉も細かくは切れないのでぶつ切り。でも火力も強いから火が通るから面白い。いまは他にレジデンスの作家がいないので夜は警備員さんと私だけ。静かにワインなんぞをのみながらひとりで過ごす。

制作はほんの少しずつだけど作業している。僕はといえば142cm×180cmの印画紙を張って着脱するアルミボードをにマグネットを固定する作業。our face は露光する印画紙を露光した後一度しまって、次のネガをテストをする。次のネガをセットして引き延ばし機の距離と印画紙の位置を再度設定する。テスト露光。露光時間が決まるとまた本印画紙を出して露光。また本印画紙をしまって・・・・の人数分繰り返し。通常の11×14インチの印画紙は専用の暗箱に出し入れすればよい。しかしこれだけ大きい印画紙だとそうゆうことができない。そこで今回は鉄板の壁面に磁石で着脱可能のルミ版に印画紙を張りつけ、ネガを変える時はアルミ版全体を暗幕で包んでしまうことにした。昨夜アルミ版が届いたのでそれに木枠をつけて日本から持って来た強力マグネットをねじ止めした。

ネジやドリルの歯やボンドなどをバスに乗って買いに行くのも楽しい。(僕は日本でもホームセンターが大好き。)こちらも一通りのもはあるがやはり種類が少ない。

夕方ボンドが乾いたので暗室の壁にアルミ版を設置してみた。重さ20キロ近くあると思う。マグネットの磁力が足りるか心配だったが、充分な強度で壁に張り付いた。これを毎回投影された像にあわせて細かく移動させるのは骨が折れるに違いない。アシスタントが揃うか心配だ。しかしともかくアルミ版が完成してひとまず安心。

ここは写真祭の終わった今も海外の関係者が連日多く訪れ、美術館の館長クラスや有力なコレクターの訪問も頻繁です。日本にはない活気を感じます。
今日は夕方に平塚市美術館の端山さんがいらした。そもそもここ三影堂を紹介してくださったのは端山さん。ミヅマ画廊の畠山直哉さんの展示や上海の画廊の荒木さんの展示などを散歩がてらご案内する。

投稿者 Ken Kitano : 08:47

2010年05月02日

5月1日 北京生活スタート

ソウルから北京入りしました。
いやー、三影堂、気持ちいいですよ〜。
活気あります。ちょうどいまここ北京市郊外の草場地は写真祭の最中で写真展やイベントがたくさん。またアート北京の会期でもあるので、各国のキュレーターや関係者がたくさん来ています。今日も香港の画廊の方やベルギーのキュレータなどなど、お会いしました。

それに、いい写真がたくさんあって、元気でちゃいました。
ソウルでみた韓国作家の作品は物質的で蛍光色、表層的な作品が多くてややしょくようしましたが、中国の作品は世界と人の存在の、揺らぎと深さ、それに危うさがあって、ほっとします。なかでも今日会ったMOYIさん1989年(天安門事件の頃)撮った、発表する場もないままに撮ったスローシャッターの都市の写真は心を揺さぶられました。同じ頃、僕は東京でスローシャッターで来る日も東京を撮り続けていました。ちなみに旧ソ連にも、またベルリンにも、同じ頃似た手法で都市をモノクロでスローで撮っていた作家がいることを最近知りました。社会が急速に変わる時代と場所で、似た手法で人の存在と世界の有り様を模索する表現が、ドイツ、ソ連、中国、日本で同時多発で生まれていたことはとても面白い。そして、彼らがみな、2000年代に入って評価され始めたことも。

僕はこれから3ヶ月、ここ三影堂撮影芸術中心(Three shadows photography center)で滞在制作と7月に展覧会をします。最大の目的はour faceのラージサイズ。148cm幅のバライタ印画紙で制作することです。イルフォードから取り寄せたロール紙が既に昨年ここに着いています。微小の露光を数十回繰り返します。その都度印画紙をしまって位置調整とテスト露光をしながら。通常の四つ切りサイズでも時々気が遠くなる作業です。それを等身大のサイズでやります。大きなチャレンジです。

僕の滞在する部屋はなんといま森山大道さんの展示をしている展示室の二階にあります。部屋の小窓から森山さんの「遠野物語」や犬の写真の足ビンテージが見えるという恐れ多い状況。
森山さんに足を向けないようにベットの向きを考えて寝ます。

今日から3ヶ月北京の生活が始まります!!

三影堂芸中中心
http://www.threeshadows.cn/
このプロジェクトにはポーラ美術振興財団と国際交流基金のご助成を頂くことになりました。
助成の採択に感謝申し上げます。

投稿者 Ken Kitano : 10:19