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2011年06月30日

ラディカルさをポップで受け取るのは文化の作法

先日の川田先生との対談では触れられなかったがVIVOの10年後のプロヴォーグのことも、事前に少しだけ先生とお話した。どちらも、いまなお写真自体を批評し続ける重要な動きであったことは間違いない。写真家のビジネスをマネジメントするエージェントであるVIVOは、作品発表の場としては「10人の眼」展があった。解散後のメンバーだった作家の写真史に残る数々の活動があり、それらが一体となって「VIVOの作家たち」の仕事として、その後の現代写真を批評し続けている感がある。一方のプロヴォーグは、内部に批評があったからこそ重要であったというようなことを川田先生もおっしゃっていた気がする。VIVOの作家たちの中に福島辰夫という批評家がいたことは大きいのではないか。

プロヴォーグについて詳しくないので語る資格は僕にはないが、一点だけあげるとアノニマスという要素。このことは重要だと思う。福島先生も北海道に通い田本研造ら北方の写真師たちのことを調査されている。(評論集3巻「破綻と彷徨」に集録予定)。それら北方の無名の写真師たちの仕事のことに傾倒し、森山大道さんにも田本研造らの写真を見るよう書いたりしている。(2巻「極私・超国境の空間から」)。森山大道さんの写真は、もともとアノニマスという要素がおありだと思うし、だからこそ惹かれるのだと思う。このアノニマスという要素は日本の写真の魅力と強さの重要なファクターであり続けていると思う。

今日(6月26日)は福島先生から送られてくるべき略歴の直しが(〆切を3日すぎて毎日催促するのだが)送られれてこない。時間をあけておいたのに何もできず、しかしこの半年こんなことばかりである。催促はされるよりするほうがつらい。僕に編集者は向かない。

仕方なく新聞屋にもらったチケットで西武ドームに野球を見にいって、
それから西武池袋線のなかで椹木野衣さんの「爆心地の芸術」を読んでいたら、福田和也さんがインタビューで大竹伸朗さんの作品をみたときに長谷川利行と重なったという「既視感」という言葉に触れたとたん「あー!」と思った。(声をあげそうになったけどだいじょうぶだった。)表紙はずっと写真がいいと思っていたが、違う気がして来た。言葉だと思います。「あー!」と思った瞬間思った。ビジュアルイメージじゃいけないと。

川田先生と話して思ったのだが、VIVO(の方々)はパイオニアとして開拓した。
(そのことにもっと驚くべき、と僕が言ったのは本当で、対談では奈良原さんと細江さんについて、どうパイオニアか僕なりに少し話した。川田先生について話すと20分くらいかかるから話さなかったけど、それにはいまの僕にはとても重要なことも含まれる。そのことは置いておくとして、)
で、翻ってわれわれの時代は写真で新しく切り開けることはあまりない。(あるとすれば新しい写真の見方を提示できるだけ。これを成功しているひとは少ない。)
もっというとVIVOの後福島先生はじめプロヴォーグの方々も重要としたアノニマスという要素。以来(僕を含めて)日本の写真はこれを脈々と受け継いで未だに焼き直して続いている。(このある種の「行き止まり」の状況を正しく理解しないひとはダメだと思う。)
アノニマスがあるから日本の写真は強いとも言えるし、これが変わらないと日本の写真は変わらないともいえるのではないか。美術と接点が広がっても変らないできた。(グルスキーもルフも日本ではウケなかったのだから。)

今度の本を出す僕のモチベーションは、過去の写真ではなく福島先生たちのラディカルさが「何もないところから平気で飛ばないといけない」(2巻より)僕たちに接続する言葉と思うから。福島先生の言葉は今の写真と現実に直接接続する。だから写真より言葉が前景にこなければならない。

この感じをきちんと言うと長くなりそうだが、簡単に言うと福島さんのラディカルさにきちんと接続するにはポップでないといけない。(それが文化の作法でもあるし。)
写真が必ずしも回顧を帯びるとは限らないけど「昔の写真の本」にしたくないのもある。
「知らないの?あの頃のすごかったんだよ」的な本にしてはいけない。だって僕たちの時代の本だから。
目の前の今に写真はダイレクトに接続しないけど言葉はしている、という感じ。たったいま撮った写真すら「既に懐かしい」のが写真というメディアのよさ。でも言葉は違う回路で接続する。そもそも写真の評論集の表紙に写真なんて違うという気すらして来た。

この「ない」時代に行き止まりであることをよく知って、「ないところから飛」ばないといけない。(ビジュアルが)ない表紙に「そこから平気で飛べ」という福島さんの言葉をポンと置くようなのがいいのではないかと思い始めた。あるいは名を”刻む”感じ。
まだ感覚的で町口さん、本尾さんにもちゃんと話せるかわからないが。とにかくビジュアルより言葉。

昨日このことを福島先生に話したら「あなたってラディカルだね」と言われた。
先生、逆です。

やっと表紙の打ち合わせをできる段階まで来た。来月下旬の出版が射程に入って来た。
あとは海外作家の許諾手続きがどこまでいけるかである。

our face の写真を再プリントして並べている。いくつもの軸のasiaが見えて来て、自分で言うのも馬鹿だけど、どきどきしてきた。早く作家業に戻りたい。

投稿者 Ken Kitano : 10:28

2011年06月23日

対談

週末に川田喜久治先生との対談をさせていただいた。
pgiで個展開催中の川田先生と評論集を出版する福島辰夫先生。当事者のおふたりからVIVOのお話をお聞きできたらと企画した。(当初の予定ではこの日に間に合うはずだったが、間に合わなかった。)しかし福島先生のご体調のこともあり、ゲスト:福島辰夫(予定)と告知し、対談は川田先生に私がお話を聞く形となった。
福島先生が直前まで来るのか来ないのか、
来たはいいけど話に入るのか入らないのか、最後に挨拶するのかしないのか・・
よだんを許さない状況の暗中模索、私のつたない舵取りで恐縮だった。

川田先生とはプロヴォーグまで話をする予定していた。事前に私からは質問と川田先生は細かいメモをご用意下さっていた。実際は予定の半分ほどしか進めなかったが、しかし土門拳さんのこと、VIVOが開始するころのこと、個々のメンバーについて、川田先生から具合的かつ臨場感のあるお話がうかがえた。

後日聞いた方から重量感のある感想や反応をいくつか頂いた。こんどの本をきっかけに、新しい世代からいくつもの言説が新たに生まれる予感を感じる。VIVOのは写真家のマネジメントとラボ機能を持ったエージェントだったが、日常的に撮った作品を福島先生に見せる、そんな批評環境があったようだ。
最後に福島先生にも前に出て来て頂いた。川田先生の「今日は批評して帰ってよ」に対して福島先生の〈・・・うん・・〉は(隣で困りましたけど)時間の重みを感じた。「歴史をみているよう」と後でいったひともいた。

対談では原爆のことは少ししか触れられなかったが、福島先生は江田島の海軍兵学校時代に原爆をみていらっしゃる。「ゆっくり動くキノコ雲の柱のなかのオレンジ色」の話をして頂こうかと思っていた。(カラーなんですよ!当たり前だけど。)福島さん、土門さん、東松さん、川田さん、後に細江さん、それぞれの原爆を並べることから「その後」に行こうとも思っていました。(無理でした)

「爆心地の芸術」「ピカドン」「スーパーフラット」など、日本美術を原爆に結びつけてとらえる流れがあるのに、写真では世代的に止まっているのはなぜか、そんなことも最近考えることのひとつ。7月の僕の東川賞の展示は「戦争」がテーマのひとつです。

投稿者 Ken Kitano : 10:00

2011年06月14日

高島屋美術画廊X 個展 設営

明日から開催の日本橋高島屋6階美術画廊Xでの 個展「深海」搬入設営しました。
パリのone dayを額装して初めてみた。やっぱりフランスの色と光で日本のone dayとはずぶん違う。
日本とアジアの作品が多いなかで唯一ヨーロッパの光と色を主張していた。
初日の明日はお昼頃から夕方4時ころまで在廊します。
ぜひお運びください。

2011.Jun.15~Jul.4 10:00~20:00
個展「深海 ー世界があることへー」
Takasgimaya Tokyo ART GALLERY X
東京日本橋高島屋6階美術画廊X
tel 03-3211-4111
http://www.takashimaya.co.jp/tokyo/event3/index.html

投稿者 Ken Kitano : 21:22

2011年06月06日

個展と対談のお知らせ

北野謙 個展 solo show
『深海 ー世界があることへー』

東京日本橋高島屋6階美術画廊X
Takasgimaya Tokyo ART GALLERY X
2011.Jun.15~Jul.4 10:00~20:00
tel 03-3211-4111
http://www.takashimaya.co.jp/tokyo/event3/index.html
「our face 」「one day 」「溶游する都市/Flow and Fusion」
3つのシリーズからセレクトして展示致します。
日本で初めてごらんいただく作品もございます。
one dayラージサイズは東京では初めて展示します。
どうぞお運びください。

* * * *
昨年から私が中心となって制作をすすめている写真批評家福島辰夫氏の評論集。いちおう7月出版予定です。
(だいぶ)遅れつつも(着々と)作業が進んでいます。大作です!

VIVOの作家川田喜久治先生と福島辰夫先生から直接当時のお話をうかがえたらと、開催中の川田先生の個展会場にて次のような催しをすることになりました。

関連企画:対談 川田喜久治×北野謙、ゲスト福島辰夫(予定)
6月18日 16時〜18時  フォト・ギャラリー・インターナショナル 
参加費2000円 
トークイベントのご予約、お問い合わせは申込先:PGI fax. 03-3455-8143またはmail. info@pgi.ac
http://www.pgi.ac/content/view/306/75/lang,ja/

投稿者 Ken Kitano : 08:15

2011年06月03日

松明堂書店閉店

鷹の台駅前の松明堂書店が5月末で閉店した。
子供の頃から利用していた書店だった。
沢山本を買ったし、地下のギャラリーでは展覧会も見たしトークイベントもたくさん聞いた。
自分の本も置いてもらったし、子供とも一緒に本を買いに行った。
小さい書店だけど哲学や芸術の書棚がしっかりあって、ここで出会った本も多い。
ちょうどいい大きさ、品揃えの本屋さんだった。
都心の大きい書店で本を買うこともネットで買うことも増えた。
ちっちゃい私鉄の駅だけど大学が4つある。美大もあるから美術書や美術雑誌もあった。
かつては駅前に3軒の書店があった。その最後の本屋さんがなくなった。
大学があっても本屋さんが続かないとは。
ショック。

投稿者 Ken Kitano : 00:04